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2024.02.24

【整形外科】標榜科目別、クリニック設計のポイント

本コラムでは、クリニック・医院等医療福祉施設の
設計のポイントを様々な切り口からご紹介しています。

今回は標榜科目を切り口としたシリーズにて、
「整形外科」医院・クリニックの設計ポイントを
ご紹介します。
年齢、症状ともあらゆる患者さんが来院する整形外科
では留意点も幅広く、設計の初期段階から様々な
検討が必要となります。
ぜひ参考になさってください。


関連記事▼
【内科系】標榜科目別、クリニック設計のポイント


【目次】
0.整形外科ならではの動線計画
1.MRI装置等の検討は設計初期から
2.救急搬送の対策
3.整形外科のユニバーサルデザイン

0.整形外科ならではの動線計画

【患者さんの動線】

整形外科では骨格や筋肉に関わるあらゆる
傷病を扱い、症状なら急性から慢性まで、
年齢なら幼児や運動部の学生から高齢者までと
対象が幅広いのが特徴です。

そのため患者さんの目的も様々で、
診察・検査のみ利用されるケースの他
再診ではリハビリ室のみ利用するケースもあり、
患者さんをスムーズに誘導できる動線計画が
必須となります。

例えば受付を①診察用・②リハビリ用と2つ設け、
目的の異なる患者さん同士の動線が交錯しないよう
計画するのも有効です。

■ケースA:初診

受付①待合室診察室検査室
待合室診察室→(処置室リハビリ室:説明)→待合室
受付①:会計

 

■ケースB:再診リハビリ利用

受付②リハビリ室受付②:会計
(→定期的に診察室へ)

【スタッフ動線】

受付が2箇所になれば受付事務スタッフも2箇所に
配置することになり、どちらも出入口や待合からの
視認性に加え、スタッフ専用ゾーンとの接続にも
配慮します。

また、整形外科では医師・看護師のほか、理学療法士
や作業療法士、X線技師といった専門職が多く
所属するため、以下の点にも留意したいところです。

■職種を越えた連携が取りやすい室配置とする
診察室や検査室・処置室に加え、リハビリ室がある
整形外科では診察室との動線にも配慮します。

診療には医師と専門職の連携が必須であり、
患者さんも同日に診察とリハビリの両方受ける
ケースもあることから、診察室とリハビリ室は
スタッフ・患者さん共に往来しやすい位置関係が
スムーズです。
また、繁忙時にスタッフ動線が交錯しないよう
スタッフゾーンの通路を狭くし過ぎない等の配慮を
すると良いでしょう。

■休憩スペースの広さや場所を検討する
同時に休憩するスタッフの最大人数を設計者に伝え、
必要な休憩スペースの広さを割り出します。
場合によっては一部の室を兼用とする等
建物の規模や想定の従業者数、運用方針等を
総合的に勘案し、設計の打合せを進めていきます。


※「患者さん」「医師」「スタッフ」3者の動線:
基本的な考え方は下記コラムをご参照ください。


関連記事▼
【メディア掲載記念】クリニック設計
決め手は 「患者さん」「医師」「スタッフ」3者の満足

1.MRI装置等の検討は設計初期から

【MRI装置が建物計画に大きく影響】

例えばMRI装置を導入する場合、
「永久磁石方式」
「超電導方式」
どちらの方式を選ぶかによって
必要な室の広さや天井高、重量による構造計画等が
大きく異なります。

以下にMRI装置の方式別に建築計画への影響を
まとめますので、ご参照いただければ幸いです。

MRI.jpg

【永久磁石方式】

超電導方式と比較し古くから普及していること、
付属設備が少ないこと、運用中の使用電力が少ない
こと等からイニシャルコスト、ランニングコスト共に
抑えられ、シェアが大きい方式です。

ただし重量はガントリー(撮影装置)部分だけでも
約13.5トン(※)と非常に重く、これは超電導方式の
3倍(※)近い数値となります。

おのずと建物の基礎や床の構造の耐荷重はこの重量に
対応できる仕様とする必要があり、建物の基本仕様や
費用を左右します。

<超電導方式でも本体重量は一般的な什器・機器類
より非常に重いため、床や基礎の専用の構造検討・
施工は必要となります。>

【超電導方式】

永久磁石方式と比較し精細な撮像や高度な情報処理が
可能なため脳外科でも採用され、整形外科での普及も
進んでいます。
前述の通り、重量も永久磁石方式より非常に
軽量で構造的な負担も軽くなります。

ただし高性能ゆえ設備機器や必要電力量が多く
コスト高となり、建築計画においても広い設備
スペースが必要となります。
具体的には建物に電力を供給するキュービクル
(受変電設備)が通常より大きくなること、
磁石の超電導状態を保つための専用空調換気設備が
必要となること等から、屋内機械室や屋外設備
スペースを広く確保する必要があります。

また、必要な天井高も高くなります。
天井仕上面の位置自体も永久磁石方式より高く
なりますが、さらに上部に二重天井として施す
「電波シールド天井」の必要高さも高くなり、
永久磁石方式と比較するとトータルで約1.2m(※)
必要天井高を加算する必要があります。

つまり、超電導方式では
・設備スペース=建物内外の広さ
・天井高=建物の高さ
が大きくなり、建物全体のデザイン・構造・費用に
影響します。


(※)設計実績における数値です。
   一例としてご参照ください。

【将来を見据えた設計事例】

最近当事務所で設計させていただいた整形外科様の
事例として、MRI装置については

・開院時は永久磁石方式を導入
・将来は超電導方式への買い替えも検討

という院長先生のご要望のもと建築設計を進めました。
床や基礎の構造を永久磁石方式に耐えうる構造とし、
天井高や設備スペースは超電導方式に更新した際に
大改修をしなくて良いよう、大きめに確保する
計画です。

費用面、必要機能、時代の流れ等を総合すると、
このようなケースを想定されている先生は多いのでは
ないでしょうか。

また、どちらの方式を採用しても
MRI室自体の床・壁・天井・開口部に電波シールド・
磁気シールドを施すこと、装置のクレーン等搬入出
経路やメンテナンススペースを適切に確保すること等、
基本的な計画を設計初期に行います。

MRI装置をはじめX線等医療装置については
計画段階から設計者と相談される
ことをおすすめします。

2.救急搬送の対策

屋外からストレッチャーで患者さんを迎え入れる
場合や救急車で提携病院に送り出す場合を想定し、
メインエントランスの他に緊急搬送ルートを
確保します。
例えば、こちらの医院様では処置室に外部からの
出入り可能な両開き扉を設けました。

搬入出.jpg

外部は来院者用駐車場から見えにくい職員駐車場に
つながり、他の患者さんの心理的な混乱や来院者との
動線交錯を防ぐことができます。

3.整形外科のユニバーサルデザイン

標榜科目を問わず一般に、クリニック・医院では
車椅子使用等に対応したバリアフリー設計とする
ことが望ましいですが、整形外科ではさらに松葉杖や
足腰の傷病者等、多様な身体条件の患者さんに対応
できると安心です。

例えば股関節の傷病者対策として、待合室のソファ
の一部は股関節を深く曲げずに座れる高めの座面にて
選定します。

また、屋内の廊下・通路幅の寸法は、リハビリ室など
車椅子と歩行者のすれ違いが頻発する箇所は
幅1.2m以上、車椅子同士のすれ違いが想定される
場合は幅1.8m以上を確保できるのが理想です。


関連記事▼
個人病院のユニバーサルデザイン
【第2回:「安全」なデザイン】

4.まとめ

整形外科の医院・クリニック設計のポイントについて
ご紹介しました。

診療メニューの多様な整形外科では
院長先生の診療方針やスタッフ構成、立地条件に加え
導入装置も初期段階で検討いただきながら
設計を進めます。

設計者や医療機器メーカーを交えて協議を重ねながら
納得のいく医院建築を手に入れていただけるよう
願っています。

設計事例はこちら

WARAKUSHA代表 一級建築士・管理建築士

山﨑 正浩

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