WARAKUSHA

2022.02.16

「土地の条件」が、新築開院の準備期間を左右する話

新築工事の事前手続きと言うと、「確認申請」をイメージされる方が多いかもしれません。

しかし土地の条件によっては、それ以前に特別な手続きが完了しないと確認申請が出せない場合があります。

今回は、手続きの必要な土地の例についてご紹介します。

【目次】

0.土地探しから設計が始まる
1.「開発行為」に該当する場合
2.「農地転用」が必要な場合
3.土地の手続き完了後の流れ

0.土地探しから設計が始まる


土地には法律上の区分が与えられていて、そのままでは法的に建物が建てられない土地があります。

1.「開発行為」に該当する土地
2.「農地転用」が必要な土地

が、その代表例です。
しかしこれらの土地でも手続きすれば建設工事ができる場合があり、不動産として土地も売買されています。

ただし、一連の手続きには長ければ1年近くかかることも。
そして建築本体の計画に制約が生じることもあります。
医院建築の設計は、土地探しから始まっていると言えるでしょう。

s01.jpg「開発行為」+「農地転用」する場合のスケジュール例。
土地の手続きには、スムーズに進んでも
設計を含めて8ヶ月ほどかかっている。

1.「開発行為」に該当する場合


クリニック計画地の条件が都市計画法による「開発行為」に該当する場合、行政の「開発許可」を得た上で所定の造成工事を行う必要があります。

「開発行為」の該当条件は、土地の立地条件や面積などにより異なります。
詳しくは各自治体の運用基準をご参照ください。


「開発行為」としてクリニックを新築する場合には、特に以下3点が開業準備に大きな影響を及ぼします。

【長い準備期間が必要】
【土地造成の費用がかかる】
【建物の計画に制約が生じる】

具体的な内容をご紹介します。

【長い準備期間が必要】

開発許可を得るためには、土地の造成設計と、それに基づいた建築の設計を並行して行う必要があります。
これらの設計図は、許可申請書類の一部として提出が義務付けられているからです。

数か月にわたる設計を経て、開発許可が出るまでにも数か月単位の期間がかかります。

【土地造成の費用がかかる】

「開発行為」として建物を建てる場合、その土地を都市計画法に適合させるための造成工事が必須となります。
造成工事の内容は条件により異なりますが、代表的なものは以下のような工事です。

■擁壁の設置
■調整池の配備
■車の出入口の整備

■擁壁の設置

周囲と土地の高低差がある場合、その高低差を処理するために擁壁を造成します。
高い方の敷地の土砂が低い方の敷地へと崩れ落ちないようにするためです。

擁壁.JPGコンクリートブロックの下部の
継目のないコンクリートが、擁壁部分。
写真の土地では地下1.5mほどの深さまで埋まっている。


■調整池の配備

敷地から道路に雨水が流れ出ないよう、敷地内の道路側に調整池を設けます。
開発前は雨が降っても土の地面全体で雨水を吸収・浸透できていたものが、舗装地面と建物とで構成された敷地になることで雨水が浸み込まず流れてしまいます。
冠水のリスク対策として、雨水の流出量を調整する「調整池」の造成が定められているのです。

調整池.JPG

白いフェンスで囲われた内部が調整池。

【建物の計画に制約が生じる】

■車の出入口の整備

周囲の交通への影響から、開発行為では駐車場についても規定があります。

例えば浜松市の場合、

・車の出入口の幅(1か所6m以下)
・敷地に応じた出入口の位置や数
・敷地内に車の転回スペースを設けること
・規定の台数までは縦列駐車せず停められること

などが定められています。

駐車場1.jpg駐車場2.jpg駐車場の例。
敷地内で車を転回させてバック駐車ができる。
2か所の出入口で運用する計画で、
出入口同士の間隔も所定の距離を確保している。


駐車場の規定に加え、調整池の造成が必要な場合、駐車スペースとして期待していた場所が調整池になってしまうかもしれません。


このように、定められた外部要件を満たすには建物の位置や玄関口がおのずと決まってきます。

「開発行為」に該当する医院新築の場合、建物の計画に制約が生じることがあるのです。

2.「農地転用」が必要な場合


敷地が農地法で定められた「農地」である場合、耕作を目的とした土地であるため、そのままではクリニック新築工事はできません。
所定の手続きを経て、建物が建てられる「宅地」に転用しておく必要があります。

ただし前提として、すべての農地が転用OKというわけではありません。
農地は国の食料自給率と紐づけて指定されているからです。
転用OKな場合であっても、条件によっては厳しい審査が行われます。

農地から宅地への転用方法は、大きく以下の3パターンに分けられます。

【届出を出して転用】
【許可を取って転用】
【審査に通過し、かつ許可をとって転用】

【届出を出して転用】

農地が都市計画法上の「市街化区域」に属する場合、市町村の農業委員会に届出を出せば宅地に転用できます。
この場合、農地転用の許可申請は不要です。

「市街化区域」=市街化を進めている区域であり利便性が良い分、農地の中では土地の価格が若干高くなりますが、手続きとしては比較的短期間で完了します。

【許可を取って転用】

「市街化調整区域」に属し、かつ「白地」の農地の場合には、許可を取得することで宅地へ転用できます。

「市街化調整区域」=市街化を抑制すべき区域なだけあって、農地から宅地への転用にはそれなりの手続きを要します。
ただし「白地」とは、農業振興地域として指定されていない地域のこと。
そのため届出で済ませることはできないものの、許可を取得すれば農地転用が可能となるのです。

ちなみに農地転用の許可申請は、提出できるタイミングが限られています。
浜松市の場合には月1回。許可が下りるまでの期間も見越し、余裕を持って申請しましょう。

【審査に通過し、かつ許可をとって転用】

「市街化調整区域」に属する「青地」の農地は、より大がかりな手続きをする必要があります。

「市街化調整区域」=市街化を抑制すべき区域
かつ、
「青地」=農業振興地域として指定されている農地
であるため、
まずは農業振興地域の指定から除外して「白地」に変える審査を受けなければなりません(除外申請)。

審査に通って初めて、「宅地」への転用許可が申請できます。

ここで注意したいのは、「青地」の除外申請の受付は(浜松市の場合)年に2回のみである、という点です。
タイミングによっては、除外申請だけで半年待ち...という状況にもなり得るので要注意です。

3.土地の手続き完了後の流れ

建築の設計図面の総枚数が100枚だとすれば、そのうち開発許可や農地転用の手続きに必要な図面は約10枚。
より詳細の設計を経て残りの90枚を図面化し、設計図書を完成させます。

設計図書が揃ったら確認申請の書類を提出し、手続きが完了したら着工するのが大まかな建設準備の流れです。

s02.jpg

手続き後のスケジュール例。
開発許可・農地転用の申請を提出してから着工まで、
造成工事を含めて約4ヶ月かかっています。

4.まとめ

「土地の条件」が医院新築の準備期間を左右する
という話について、ご紹介しました。

スケジュール例に登場する建築の「基本設計」や「実施設計」、「工事監理」については以下のコラムで詳しくお話ししています。

クリニック新築の流れ【第1回:「基本設計」で高精度の予算・スケジュール】

クリニック新築の流れ【第2回:「実施設計」ドクターのための打合せポイント】

クリニック新築の流れ【第3回:「ていねいな監理」がもたらす3つのメリット】


なお、実際の事例作品は
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設計事例はこちら

この記事は私が書きました

WARAKUSHA代表 一級建築士・管理建築士

山﨑 正浩

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メディア掲載

2021年4月15日 静岡新聞 夕刊第一面

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