【プラン紹介】地域を最大限に活かす医院建築とは?
ご依頼ベースでなく、自己研鑽の一環で
実在の土地に建築プランを作成することがあります。
今回のコラムでは、私が直近でプランを作成した
住宅付診療所の複合施設をご紹介します。
プランは大学院修士課程の研究として行ったもので、
浜松市のとある住宅街の木造建築です。
架空の建築ならではの点もありますが、
地域の課題や景観に関して、
できるだけリアルに向き合ってみました。
本コラムでは、その概要を挙げていきます。
【目次】
1.浜松市郊外の課題
2.建物にできる課題解決
2-1.ヘルスケアの拠点としての建築プログラム
2-2.三角地を活かし人の流れを生む
3.プラン完成イメージ
- 1.浜松市郊外の課題
-
計画地は浜松駅から7kmほど離れた住宅街。
小さな私電が通り、最寄駅まで徒歩10分の立地です。多くの日本の地方都市郊外と同様に、
計画地周辺は「住宅と田畑が混在する地域」として
大小・テイスト・年代の様々な住宅が点在し、
景観としては文脈のない状態になっています。そしてこのエリアは昭和30年代の団地開発により
往年は子連れ世帯で賑わいを見せましたが、
当時から住み始めた人々は今や70~80歳代となり、
一帯は高齢者がメインの住民層となっています。周辺店舗の相次ぐ閉店も重なり、
買い物や各種サービスが受けられる場所もありません。
車の運転ができない高齢者にとっては
不自由な場所と化してしまいました。病院事情に関しても同様で、
団地周辺に長年開院していた整形外科が閉院に。
高齢の住民へのヒアリングを通じて、
急な治療を要しない
軽症・慢性症状の方であっても、
近所の友人と話せる場や
先生から健康維持のアドバイスがもらえる場として
気軽に通える「かかりつけ医」を求めていることが
わかってきました。一方で、近年は明るい兆しも見られます。
空き地となった土地に新しい住宅が建ち始め、
少しずつではありますが若年のファミリー層が
転入し始めているのです。
市街地より安価な価格でマイホームが手に入ることは
計画地域の強みと言えるでしょう。また、変わらず地域で愛されている伝統行事もあります。
エリア内の神社で行われる夏祭りは毎年賑わいを見せ、
中でも打ち上げ花火は夏の風物詩となっています。今回の診療所付住宅の計画では、
団地の「玄関口」にあたる立地と
三角形の土地形状を活かし、
過渡期にある地域の課題にアプローチできる
建築を目指しました。
- 2.建物にできる課題解決
-
- 2-1.ヘルスケアの拠点としての建築プログラム
-
【診療所付住宅】
整形外科と院長の自邸を併設。
整形外科にはリハビリ部門を設け、
高齢の方々が気軽に通い続けられるような
カジュアルな空間を計画します。
住宅部分は2階とし、車庫はビルトイン形式に。
外から生活の様子がわからない計画とします。【薬局】
処方箋の取り扱いだけでなく、漢方薬などによる
健康管理も提案。身体の内側から穏やかに
体質改善にアプローチできる機能を持たせます。
目立った不調よりも、不定愁訴など原因の
はっきりしない症状に悩まされがちな高齢者を
サポートします。【八百屋・カフェ】
「医食同源」の考えに基づき、
産地直送の野菜や果物を取り扱う正統派の八百屋。
季節の果物を使ったスイーツの販売も行います。
近隣神社の夏祭りの際には特別メニューも提供。【パン屋】
小さな子ども連れや仕事帰りにもふらりと立ち寄れる
オープンなつくり。
増えつつある若年ファミリー層の住民に対応しています。- 2-2.三角地を活かし人の流れを生む
-
三角の土地形状により
人・車の流れの分岐点となっている
計画地の現状を逆手に取り、
三角形の頂点を起点にして
分かれていた流れを合流し
新しい流れを生み出せる外観計画としました。
誰もが気軽に利用できる複合施設とすることで、
地域住民の自然な交流を促します。
外観検討写真。
屋根を含め、自然な人の流れが生まれる形状を
複数検討しています。
交差点に面した部分は建物の高さを出すことで
団地一帯の景観を統率できるボリューム感を確保。
一方、住宅地内にあたる建物側面は低めに抑え、
隣接の住宅との調和をとります。
外観の圧迫感だけでなく、
採光面・眺望面でご近所の住環境を妨げないよう
留意しています。
- 3.プラン完成イメージ
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【外観】
角地交差点より。
三角の頂点部分をオープンなつくりとすることで
これまで分岐・通過するだけだった人の流れを変え、
自然な交流のきっかけを作るプランとします。【診療所】
ガラス張りの内部はリハビリコーナー。
2層吹抜けになっています。
従来型の医院に多い閉ざされたイメージを払拭し、
フィットネスクラブのような明るくポジティブな
空間として計画しました。
【住宅】
LDKから外部テラス方面を見たアングル。
大きな開口部の外にテラスを設けてあり、
外部から直接室内を見られることはありません。【八百屋・カフェ】
店舗外周の回廊沿いに中庭を設け、
天気の良い日には外でも飲食ができます。
普段は近隣住民やクリニック利用者の憩いの場として、
夏祭りの際には花火鑑賞の場としての利用を
想定しています。【パン屋】
中庭を挟み、八百屋・カフェの向かいに配置。
親子連れでの休憩やワークショップを想定した
開かれた空間です。
- 4.まとめ
-
京都や倉敷などの伝統的な街並みと異なり、
地方都市の郊外には建築の外観に関する
ガイドラインがほとんどなく、
その景観は個々の住民の好みに委ねられているのが
現状です。また、店舗や診療所に関しても
大通り沿いの自動車アクセスを想定したものが多く、
サービス内容も不特定多数を対象とした
「大味」のものになりがちです。景観・サービス両面において
その土地や住民に寄り添ったものとする
ひとつの答えになれば...との願いを、
この建築プランに込めました。
以上、
本コラムでは
私の修士課程での研究テーマ
「地方都市(浜松)住宅地の街並み研究」
の一部をご紹介しました。研究内容は日々の設計に反映し、
お客様に惜しみなく還元できるようにしています。
土地の環境を最大限に活かした建築設計を行うことは、
サステナブルな建物を社会に提案すること。
クリニックデザインにおいても
今後必須となるであろうと感じています。なお、無料進呈の「医療・福祉施設設計事例集」では
実際の施設について詳しくお伝えしております。
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この記事は私が書きました
WARAKUSHA代表 一級建築士・管理建築士