WARAKUSHA

2021.07.20

【プラン紹介】地域を最大限に活かす医院建築とは?

ご依頼ベースでなく、自己研鑽の一環で
実在の土地に建築プランを作成することがあります。
今回のコラムでは、私が直近でプランを作成した
住宅付診療所の複合施設をご紹介します。

プランは大学院修士課程の研究として行ったもので、
浜松市のとある住宅街の木造建築です。
架空の建築ならではの点もありますが
地域の課題や景観に関して
できるだけリアルに向き合ってみました
本コラムでは、その概要を挙げていきます。


【目次】
1.浜松市郊外の課題
2.建物にできる課題解決
  2-1.ヘルスケアの拠点としての建築プログラム
  2-2.三角地を活かし人の流れを生む
3.プラン完成イメージ

1.浜松市郊外の課題

 

計画地は浜松駅から7kmほど離れた住宅街。
小さな私電が通り、最寄駅まで徒歩10分の立地です。

1.jpg

多くの日本の地方都市郊外と同様に、
計画地周辺は「住宅と田畑が混在する地域」として
大小・テイスト・年代の様々な住宅が点在し、
景観としては文脈のない状態になっています。

そしてこのエリアは昭和30年代の団地開発により
往年は子連れ世帯で賑わいを見せましたが、
当時から住み始めた人々は今や70~80歳代となり、
一帯は高齢者がメインの住民層となっています。

周辺店舗の相次ぐ閉店も重なり、
買い物や各種サービスが受けられる場所もありません。
車の運転ができない高齢者にとっては
不自由な場所と化してしまいました。

病院事情に関しても同様で、
団地周辺に長年開院していた整形外科が閉院に。
高齢の住民へのヒアリングを通じて、
急な治療を要しない
軽症・慢性症状の方であっても、
近所の友人と話せる場や
先生から健康維持のアドバイスがもらえる場として
気軽に通える「かかりつけ医」を求めていることが
わかってきました。

一方で、近年は明るい兆しも見られます。
空き地となった土地に新しい住宅が建ち始め、
少しずつではありますが若年のファミリー層が
転入し始めているのです。
市街地より安価な価格でマイホームが手に入ることは
計画地域の強みと言えるでしょう。

また、変わらず地域で愛されている伝統行事もあります。
エリア内の神社で行われる夏祭りは毎年賑わいを見せ、
中でも打ち上げ花火は夏の風物詩となっています。

2.jpg

今回の診療所付住宅の計画では、
団地の「玄関口」にあたる立地と
三角形の土地形状を活かし、
過渡期にある地域の課題にアプローチできる
建築を目指しました。

2.建物にできる課題解決

 

2-1.ヘルスケアの拠点としての建築プログラム

【診療所付住宅】
整形外科と院長の自邸を併設。
整形外科にはリハビリ部門を設け、
高齢の方々が気軽に通い続けられるような
カジュアルな空間を計画します。
住宅部分は2階とし、車庫はビルトイン形式に。
外から生活の様子がわからない計画とします。

【薬局】
処方箋の取り扱いだけでなく、漢方薬などによる
健康管理も提案。身体の内側から穏やかに
体質改善にアプローチできる機能を持たせます。
目立った不調よりも、不定愁訴など原因の
はっきりしない症状に悩まされがちな高齢者を
サポートします。

【八百屋・カフェ】
「医食同源」の考えに基づき、
産地直送の野菜や果物を取り扱う正統派の八百屋。
季節の果物を使ったスイーツの販売も行います。
近隣神社の夏祭りの際には特別メニューも提供。

【パン屋】
小さな子ども連れや仕事帰りにもふらりと立ち寄れる
オープンなつくり。
増えつつある若年ファミリー層の住民に対応しています。

2-2.三角地を活かし人の流れを生む

三角の土地形状により
人・車の流れの分岐点となっている
計画地の現状を逆手に取り、
三角形の頂点を起点にして
分かれていた流れを合流し
新しい流れを生み出せる外観計画としました。
誰もが気軽に利用できる複合施設とすることで、
地域住民の自然な交流を促します。

3.JPG
外観検討写真。
屋根を含め、自然な人の流れが生まれる形状を
複数検討しています。


交差点に面した部分は建物の高さを出すことで
団地一帯の景観を統率できるボリューム感を確保。
一方、住宅地内にあたる建物側面は低めに抑え、
隣接の住宅との調和をとります。
外観の圧迫感だけでなく、
採光面・眺望面でご近所の住環境を妨げないよう
留意しています。
4.jpg

3.プラン完成イメージ

 

5.jpg【外観】
角地交差点より。
三角の頂点部分をオープンなつくりとすることで
これまで分岐・通過するだけだった人の流れを変え、
自然な交流のきっかけを作るプランとします。

6.JPG【診療所】
ガラス張りの内部はリハビリコーナー。
2層吹抜けになっています。
従来型の医院に多い閉ざされたイメージを払拭し、
フィットネスクラブのような明るくポジティブな
空間として計画しました。


7.jpg【住宅】
LDKから外部テラス方面を見たアングル。
大きな開口部の外にテラスを設けてあり、
外部から直接室内を見られることはありません。

8.jpg【八百屋・カフェ】
店舗外周の回廊沿いに中庭を設け、
天気の良い日には外でも飲食ができます。
普段は近隣住民やクリニック利用者の憩いの場として、
夏祭りの際には花火鑑賞の場としての利用を
想定しています。

9.jpg【パン屋】
中庭を挟み、八百屋・カフェの向かいに配置。
親子連れでの休憩やワークショップを想定した
開かれた空間です。

4.まとめ

 

京都や倉敷などの伝統的な街並みと異なり、
地方都市の郊外には建築の外観に関する
ガイドラインがほとんどなく、
その景観は個々の住民の好みに委ねられているのが
現状です。

また、店舗や診療所に関しても
大通り沿いの自動車アクセスを想定したものが多く、
サービス内容も不特定多数を対象とした
「大味」のものになりがちです。

景観・サービス両面において
その土地や住民に寄り添ったものとする
ひとつの答えになれば...との願いを、
この建築プランに込めました。

10.jpg


以上、
本コラムでは
私の修士課程での研究テーマ
「地方都市(浜松)住宅地の街並み研究」
の一部をご紹介しました。

研究内容は日々の設計に反映し、
お客様に惜しみなく還元できるようにしています。
土地の環境を最大限に活かした建築設計を行うことは、
サステナブルな建物を社会に提案すること。
クリニックデザインにおいても
今後必須となるであろうと感じています。

なお、無料進呈の「医療・福祉施設設計事例集」では
実際の施設について詳しくお伝えしております。
ぜひ、資料請求からお申込みください!

資料IMG_3485-1.jpg

この記事は私が書きました

WARAKUSHA代表 一級建築士・管理建築士

山﨑 正浩

山﨑アイコン.JPG

PAGE TOP