クリニック新築の流れ【第2回:「実施設計」ドクターのための打合せポイント】
- 0. 設計打合せの流れ
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クリニックの新築時、院長先生が知っておくべき
設計打合せの流れをご紹介しているコラムの第2回、
「実施設計」についてご紹介いたします。打合せの流れ:
「実施設計」の成果図面の枚数は、平均約100枚。
(床面積200㎡前後のクリニックの場合)
デザイン・機能・コストパフォーマンスを
最大限に発揮するためのポイントを盛り込んでいます。
ぜひ、これからご紹介するポイントをご参照ください。【目次】
1. 「実施設計」のゴールは?
2. 「実施設計」で決めること
3.打合せ頻度と項目の例
- 1. 「実施設計」のゴールは?
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【ゴール(目的)は3つ】
「実施設計」とは字のごとく、
工事を「実施」するための図面一式を書き上げること。
細かな仕様や寸法、型番等もすべて図面に盛り込みます。
私たち設計者は、これら「実施設計」の図面が
以下3つの目的を果たせるよう業務にあたっています。①お施主様(院長先生)とのコミュニケーションツール
②建設会社への意図伝達ツール
③行政への許認可用提出書類【①お施主様(院長先生)とのコミュニケーションツール】
「基本設計」にて決定したクリニックの計画の内容を
設計者が図や文字に具現化したものが「実施設計」の図面です。
この一式図面を打合せ資料として、
実際の建物内における人の動きや
仕上げの素材感、建具(ドア類)・収納の使い方等、
開院後の運用イメージを院長先生とすり合わせるのです。イメージの共有が中心だった「基本設計」から、
とことんリアルに内容を詰めていく「実施設計」へ。
図面だけではわかりにくい部分については
模型や内観パース(完成予想図)、
イメージ画やカタログ・サンプル等を適宜組み合わせながら、
院長先生が具体的に内容を検討いただけるよう工夫しています。また、打合せ時間があまり確保できない先生も
いらっしゃることと思います。
そんな先生にも負担なく進められるよう、
WARAKUSHAでは
十分な事前準備や仮説立てをした上で
議題をシンプルかつ網羅的に洗い出し、
打合せに臨んでいます。ある程度設計者に任せ効率的に進めたい先生にも、
とことん建物にこだわりたい先生にも。
お一人お一人に合った方法で
高い医療パフォーマンスが発揮できる建築を
手に入れていただけるよう、
対面・オンラインを組み合わせて進めています。【②建設会社への意図伝達ツール】
建設会社さんとの関係においては、
「実施設計」の図面は
工事内容の意図伝達ツールとなります。
工事費の見積もこの図面一式をもとに算出されますので、
まずは正確に積算できる図面であることが大前提です。
どんな設計意図のもと、どの材料・工法を
想定しているかを実施設計の図面に落とし込んでいきます。以上が「想定外の増額を防ぐ」ことであるならば、
実施設計の図面は
「工事の不具合の発生を防ぐ」
内容であることも、同じくらい重要です。「部材の取り合い」を例にお話しすると、
職人さんが作りやすい納まりを考えて図示することで
施工コストが抑えられ、
仕上がりも丈夫で美しいものとなります。
逆にこうした検討が不十分な場合、
屋根・天井まわりの部材なら雨漏りのリスクなど、
建物使用上の不具合に直結します。このように
各部の細部にわたる丁寧な検討は、
デザインだけでなく
コストや工程、機能のためにも
極めて重要なプロセスなのです。【③行政への許認可用提出書類】
建築の確認申請をはじめ、
必要に応じ都市計画法上の開発や道路関係の申請など、
行政各所との協議や手続きには実施図面が必須となります。
各部署の許認可に必要な情報を正確に記載した図面を
実施設計で作図しています。
- 2. 「実施設計」で決めること
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実際のクリニック設計の打合せは、
以下のような順番で進めています。①建物のフォルムに関わること
②建物の内外装と基本性能
③窓・ドア類
④各種設備
⑤家具類
⑥サイン(案内表示)、外構、植栽他いずれも、前段階の「基本設計」で決めた内容を
具体的な数値や材料、品番に落とし込むイメージです。
それでは、それぞれの具体的な打合せポイントについて
ご紹介します。【①建物のフォルムに関わること】
各種法令の諸条件や調整事項をふまえて、
建物のフォルムに関わる
平面・高さの双方向の寸法を同時に決めていきます。
平面方向では内外空間の間取り、
高さ方向では諸室の天井高や床の段差などが協議事項です。例えば外部空間の平面計画では、
車椅子対応で建物アプローチにスロープを設ける場合、
段差の高さとスロープの勾配によって
必要な長さが異なります。
法律やユニバーサルデザイン指針、
開業後の患者さんの年齢層などを総合して、
段差やスロープの計画を固めています。【②建物の内外装と各室の性能】
外壁や内部の床・壁・天井の仕上材や
求める遮音・断熱性能について打合せをします。
採用する材料によって下地や構成材が変わり、
その内容により次段階で決める窓・ドア類、設備・機器の
選択肢や納まりが変わるからです。特にこの段階の決定には、
開業後の動線の具体的なイメージが欠かせません。
例えば内装であれば
車椅子やストレッチャーの利用部分は
室内壁の腰下部分を傷みにくい素材としたり、
土足・内履きの履き替えや各室の清掃方法により
水濡れに耐える素材としたりといった計画を検討します。
また、各室の性能であれば
診察室の遮音や待合室の調湿、クリーンルーム仕様やレントゲン等、
医院の各室に求める機能を相談しながら素材選定を行います。パース(完成予想図)。
受付から待合室を見た様子をイメージいただけるようスケッチしたもの。【③窓・ドア類】
②で決定した内外装や性能に見合う窓・ドア類の建具から、
希望のデザインや求められる機能に応じて
具体的な寸法や仕様を決めていきます。例えば待合室に遮音性能を持たせる場合、
ドアや引戸も防音仕様とする必要があります。
また、窓については外部音のシャットアウトに対する要望や
換気の経路、法律の諸条件によっても選択肢が変わります。その他、それぞれの建具について
自動・手動の別や静かに戸が閉まる半自動仕様、手すりの有無、
内部を見渡せるガラス入りにするか否か等を協議します。ドアや窓といった建具類は
実際の使い勝手に直結する重要な部分。
あらゆる面から複合的に判断し、
運用がスムーズになる仕様を計画します。【④各種設備】
照明・インターネット・電話等の電気関係、
水まわり・エアコン・換気等の機械関係、
そして電子カルテやレントゲンなどの医療機器関係を決定します。例えば各室の用途により照明計画や空気清浄度・換気経路の計画、
各所の流しやトイレ・洗面等の商品選定が
打合せの議題に挙がります。中でも医療機器については医院・病院の心臓部であり、
機能、デザイン共に建築とマッチした使いやすさが重要となります。
ときに医療機器業者の方と合同での設計打合せを行い、
機器特有の条件に応じた建築材料や配線等と
建築デザインとのすり合わせをしています。【⑤家具類】
家具には建築に造りつける「造作家具」と
既製品を設置する「購入家具」に分かれますが、
「造作家具」の場合には「実施設計」にて詳細を図面化します。例えば受付カウンターを造作する場合においては、
患者さん側に荷物置きの台を設けるか、
車いす用の受付も設けるか、
スタッフ側にPCデスクや収納を忍ばせるか、等を打合せの上で
デザイン・製図を行います。また、「購入家具」についてもあらかじめ設置位置を想定し、
室内計画に落とし込んでいます。
待合室のソファであれば、
入口、受付、診察室それぞれとの位置関係によって
ソファへの視線の届き方を検討し、
サイズや設置位置、角度のご提案をしています。
WARAKUSHAではインテリアコーディネーター所員による
建築デザインと合った家具のご提案も可能です。【⑥サイン(案内表示)、外構、植栽他】
室名等案内表示や看板といった屋内外におけるサインのデザイン、
駐車場の仕上や縁石等の外構、
庭や緑地帯、花壇等の植栽計画を具体化します。特にサインについてはデザイン性だけでなく、
どんな方にも、遠くからでも見やすい視認性の良さも重視します。
例えば浜松市のユニバーサルデザイン指針では
「遠くから見る文字は角ゴシック系で太めの書体を使用する」
「文字と下地の色彩は5度以上の明度差を確保する」
等の基準が定められています。
WARAKUSHAでも、この指針を標準として建築デザインとの
バランスを考慮し、サインをご提案しています。外構計画や植栽計画についても、初めての患者さんにとっては
クリニックの「顔」となる大切な部分です。
入口の見つけやすさや駐車・送迎のしやすさ、
そして入りやすい雰囲気を大切に、詳細の図面を完成させます。
- 3.打合せ頻度と項目の例
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院長先生と設計者の打合せ頻度と内容の一例として、
約200㎡規模、
医師は院長先生お一人というクリニックの
「実施設計」打合せ概要をご紹介します。このクリニック様の実施設計の期間は約4か月、
打合せ回数は計10回+メールでのやり取りでした。土地・建物の諸条件により
同規模であっても期間・頻度は異なりますが、
ひとつの目安としてご参照いただけたらと思います。【打合せ10回の内訳(1回:約2時間)】
■第1月:1回
①建物のフォルムに関わること■第2月:2回
①建物のフォルムに関わること
②建物の内外装と基本性能■第3月:4回
②建物の内外装と基本性能
③窓・ドア類
④各種設備・機器
⑤造作家具類■第4月:3回
③窓・ドア類
⑤造作家具類
⑥サイン(案内表示)、外構、植栽他
- 4. まとめ
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クリニック等医院開業にあたり、
建物新築打合せの初期段階
「基本設計」についてご紹介しました。次回コラムでは次の段階「実施設計」において、
どのような観点で計画を進めて行くかについて
お話ししたいと思います。工事を含めた全体の流れについては、
「設計の流れ・よくある質問」
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ぜひ、資料請求からお申込みください。今回ご紹介の事例
林齒科医院様 ほか
この記事は私が書きました
WARAKUSHA代表 一級建築士・管理建築士