WARAKUSHA

2021.03.25

クリニック新築の流れ【第1回:「基本設計」で高精度の予算・スケジュール】

0. クリニック新築 打合せの流れ

医院開業前の準備には事の大小、期間の長短様々ありますが、
中でも建物の設計打合せは非常に重要な準備の一つです。
この打合せが甘いと
後に想定外の増額や不具合を生む原因にもなりますので、
丁寧かつ適正なタイミングで進める必要があります。

いつ、何を決めれば
予算・デザイン共に納得の建物が完成するのでしょうか?
このコラムでは、
クリニック新築時の打合せを3段階に分け、
時系列に沿ってポイントをお伝えします。
ぜひ、参考になさってください。

打合せの流れ:
今回のコラムは第1回として
「基本設計」についてのご紹介です。

コラム用.jpg

【目次】
1. 「基本設計」のゴールは?
2. まずは素地づくり。コンセプトで全体の「軸」を通す
3.基本設計で決める3つの計画 諸法令にも注意

1. 「基本設計」のゴールは?

 【デザインだけでない大きな目的】

「基本設計」のゴール(目的)は、
デザインの方針を決めることだけではありません。

デザインを含めた建物プランの骨子を組み上げ図面化し、
工事の金額とスケジュールを概算することが
大きな目的です。

ここでの検討にヌケ・モレがあると
後に実際の工事金額や期間がどんどん膨れ上がってしまうため、
あらゆる留意点をひと通り網羅しておく必要があるのです。

精度の高い予算組みとスケジューリングには
緻密な「基本設計」が必須となります。
設計者の業務フェーズとしては初期にあたりますが、
<ここで組んだ骨子にそのまま肉付けすれば施工できる>
という水準まで検討を行った上で
お施主様への提案内容を作成するのが「基本設計」です。

2. まずは素地づくり。コンセプトで全体の「軸」を通す

【「迷ったら戻るところ」を決めておく】

開院という一大プロジェクトにおいては
建物の打合せでも、まずは治療方針・経営方針を含めた
全体コンセプトを深く共有することが大切です。
これは医院経営のコンセプトを元に
建築におけるコンセプトを作るという目的があるからです。

これから始まる打合せにおいて、建物の仕様や色など
迷うことも出てくるかもしれません。
そんな時にもコンセプト=「戻るところ」が共有できていると
おのずとデザイン上のガイドラインが浮かび上がり、
きれいに軸の通った建物が出来上がるのです。

【用途、規模、予算、スケジュール...根底はコンセプト】

「どんな建物を、いつまでに完成させたいのか」も
最初にヒアリングすることのひとつです。
建物の用途や規模に加え、
特に予算とスケジュールは事業を左右する項目ですが、
これらの妥当性を建築の専門家として判断する場合にも
コンセプトの共有が前提条件となります。
万が一「予算が少ない・期間が足りない」等
妥当でない部分があった場合にも、
建築コンセプトは崩さずに調整できる項目を
提示することができるからです。

コンセプト共有によりプロジェクトの素地を作ったら、
いよいよ建物の計画へ。
「基本設計」で決める具体的な内容をご紹介いたします。

3.基本設計で決める3つの計画 諸法令にも注意

 【①配置計画:土地に関するあらゆる条件を融合し練り上げる】

計画敷地のどの位置に建物を置くかを決める配置計画。
周辺環境や道路、近隣建物などが絡み合うことから、
基本設計の初期段階にしっかりと行います。

クリニックのコンセプトを元に、
通りから建物入口まで見渡せるオープンな印象を重視するか、
はたまた逆に
患者さんのプライバシー重視の奥まった配置とするか等、
まずはあらかたの方向性を定めます。

また、WARAKUSHAの主な対応エリアである
浜松、磐田などの静岡県西部は車社会ですので、
駐車場の必要台数もこのタイミングであたりを付けています。

設計者の具体的な業務としては、
現地調査や各種文献・資料等で敷地情報を揃え、
敷地と建物の関係を検討します。

周辺環境・歴史等その土地の「文脈」、
車や歩行者等の交通量、空・緑・水、
外部からの光や視線の入り方を総合し、
建物配置を複数パターン試していくのです。

01 模型 全景.JPG

なお、配置計画時に注意したいのが「開発行為」についてです。
農地からの転用など、計画地が都市計画法上の
「開発許可」の対象となる場合、
土地に調整池等を設けることが求められます。
駐車場や外部通路として期待していた面積が
確保できない可能性もありますし、
これらの造成に充てる工事費も必要です。
また、開発手続の期間も考慮しなければなりません。
予算にもスケジュールにも大きく関わる内容となるため、
早期の打合せが必須となります。

建物の配置計画と並行して、
計画地の「地面」に目を向けるのも設計者の役割です。

例えば地盤調査。
結果によっては後に予算を大きく左右する要素であり、
事前の調査が大切です。

地盤補強の必要性があるか、
建物構造にて対応すべきか等を予め精査することで、
早期から金額面と照合した計画が可能となるのです。

その他「地面」に関しては
既存樹木の生態調査により、
そのまま活かせるか、
盛土をしても生育に差し支えないか、
移植が可能であるか等の可能性を探ります。

 【②平面計画:間取り・動線は「ゾーニング」から】

間取りや動線計画を含む平面計画では、
前準備として「ゾーニング」を行います。
建築で言う「ゾーニング」は、
諸室をカテゴリごとに分別した上で
各カテゴリをどのようにレイアウト・接続するかを
検証するプロセスを指します。

そしてカテゴリの分類方法の基準には、
コンセプトが大きく影響します。

標榜科目に対する考えや見せ方、
院長先生とスタッフの患者さん対応の割合、
診療の流れや好みの雰囲気...。
新築プロジェクトの根幹となる事項であるため、
設計打合せの際は特に丁寧にヒアリングしています。

実際の事例と併せ、ゾーニングの一部をご紹介しましょう。


院長先生自ら複数ケアを行うアットホームなクリニック

諸室をスタッフの動きに沿って配置し、
院長室はすべてに均等に往来できる位置となるよう
ゾーニングしています。

診療所A.jpg

住宅併用+複数部門、プライバシー重視のクリニック

全体では医院空間と住空間、
医院内では部門別(診察、検査)+バックヤード
というゾーニングです。

診療所B.jpg

ゾーニングが固まったらいよいよ平面計画。
間取りや動線を決めていきます。
収納や水回りの概要を検討するのもこのタイミング。
設計者としても、実際の運用を想定しつつ
手を動かして考えます。

 【③立面計画:平面計画と同時進行。法検討も正確に】

平面計画の際、諸室の用途によって
必要な天井高や窓の位置などが異なるため、
高さ方向の検討も同時に行う必要があります。

さらに、室内の高さを考えることは
建物の高さや屋根形状を考えることとイコールの関係。
よって、平面計画は
立面計画(外観デザイン)と並行して行うのが
自然の流れであるのです。

それに加え、建物には
建築基準法や消防法など、
あらゆる法律が複層的に関わります。
建物の高さや面積、構造方法、
採光・換気・排煙や避難に関連した
窓・ドアの位置やサイズ...。
いずれも平面方向・高さ方向を同時に把握し、
早期からデザインに反映させたいところです。

機能もデザインも
納得の建物を手に入れていただくために。
平面計画と立面計画を
法令検討も含めた三輪体勢で、
丁寧にプランを練り上げています。

立面図・断面図原画.jpg

 

 【予算に関わる法令に注意】

建築基準法や消防法など、
適用される法令の内容によっては、
建物の予算を大きく左右する可能性があります。

例えば入院施設のある病院や
入所機能を持たせた福祉施設などでは
スプリンクラーの設置が義務付けられる場合がありますが、
スプリンクラーは数百万円単位の金額を要する設備です。
また、火災対策で内装に不燃材料の使用を課される場合、
面積の広い壁や天井の材料が対象となるため、
制限がない場合と比べ工事金額は目に見えて上がります。

盲点になりがちな法令関係ですが、
予算立てを行う設計初期だからこそ、
以上のようなポイントを確認することをおすすめします。

4. まとめ

クリニック等医院開業にあたり、
建物新築打合せの初期段階
「基本設計」についてご紹介しました。

次回コラムでは次の段階「実施設計」において、
どのような観点で計画を進めて行くかについて
お話ししたいと思います。

工事を含めた全体の流れについては、
「設計の流れ・よくある質問」
(↑クリックするとページへ移動します)
のページをご覧ください。

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資料IMG_3485-1.jpg

今回ご紹介の事例       

なごみクリニック様

林齒科医院様 ほか

この記事は私が書きました

WARAKUSHA代表 一級建築士・管理建築士

山﨑 正浩

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